5주차 氷点‐二浦弥子
ひょうてん‐にうらやこ

夏枝が突然旅行を中止た理由が、村井にあったことを、
啓造はいやでも思いしらされずにはいられなかった。
なつえがとつぜんりょこうをちゅうししたりゆうが、むらいにあったことを、
けいぞうはいやでもおもいしらされずにはいられなかった。

啓造はけさのそのことを思い出していた。
けいぞうはけさのそのことをおもいだしていた。

雪虫がひたと吸いよせられるように、
啓造の会オーバーについた。
ゆきむしがひたとすいよせられるように、
けいぞうのあいオーバーについた。

うすいかすかな羽が透いて、会オーバーの茶がうつった。
うすいかすかなはねがすいて、あいオーバーのちゃがうつった。

啓造は雪虫をソッとつまんだ。

しかし雪虫は他愛なくペタペタと死んだ。
しかしゆきむしはたあいペタペタとしんだ。

それは一片の雪が、指に触れて溶けるような、あわあわしさであった。
(幸福とか、平和というのも、こも雪虫のようなものだな)
それはひとひらのゆきが、ゆびにふれてとけるような、あわあわしさであった。
(こうふくとか、へいわというのも、こもゆきむしのようなものだな)

啓造は生きているということが、どんなに厳しい事実であるかを、
今度の海難事故で知ったつもりだった。
けいぞうはいきているということが、どんなにきびしいじじつであるかを、
こんどのかいなんじこでしったつもりだった。

あの痛ましい犠牲の上に生きている事実を生涯忘れずに、
本当に真剣に生きようと啓造は旭川に帰ってきたのだった。
あのいたましいぎせいのうえにいきているじじつをしょうがいわすれずに、
ほんどうにしんけんにいきようとけいぞうはあさひかわにかえってきたのだった。

しかし、あの体験は啓造一人の体験であった。
しかし、あのたいけんはけいぞうひとりのたいけんであった。

夏枝も、徹も、周囲の者も、あのたけり狂う波の中をくぐって来て、
いまを生きているのではなかった。
なつえも、とおるも、しゅういのものも、あのたけりくるうなみのなかをくぐって来て、
いまをいきているのではなかった。

小学校一年生のような、ういういしい真剣さで生きようとした啓造の
心持は再び垢にまみれた手で、もとの生活にグイと引きもどされた感じだった。
しょうがっこういちねんせいのような、ういういしいしんけんさでいきようとしたけいぞうの
こころもちはふたたびあかにまみれたてで、もとの生活にグイとひきどされたかんじだった。

啓造がいくら忘れよう、許そうとねがっても、
夏枝は啓造を裏切ろうとしているように思われてならなかった。
けいぞうがいくらわすれよう、ゆるそうとねがっても、
なつえはけいぞうをうらぎろうとしているようにおもわれてならなかった。

(しょせん、人間は誰も自分一人の生活いか生きることはできないのだ)
(しょせん、人間はだれも自分一人の生活いか生きることはできないのだ)

啓造はふっと、今年の春死んだ前川正を思い出した。(中略)
啓造はふっと、ことしのはるしんだまえかわただしをおもいでした。(ちゅうりゃく)

 

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